■第九話 友の死に贈る怒りの銃弾!!  〜1999年6月12日〜

あらすじ

甘木を使って哲也を始末しろ」と言う賀津夫の指示により、佐野が動きだした。
佐野は真弓を人質に取り、「真弓を助けたかったら哲也を殺せ」と甘木を脅迫した。
だが 甘木は佐野の脅しにはのらず、哲也とともに真弓を救い出す作戦をたてた。
それは有梨沙を人質に取り、賀津夫をおびき出し、茂義コーポレーションを一気に潰すというものだ。
哲也は有梨沙を誘い出すため、茂義邸へと向かった。
その頃 茂義邸では、「新東和を潰す」と言う賀津夫に敬雄が、激しく挑みかかっていた。
そして、有梨沙に賀津夫とともに表に出てくるよう指示を送った哲也は、茂義邸の前で拳銃を取り出し、2人が現われるのを待ち構えていたのだった。

甘木は真弓が人質に取られてる廃社屋に、単身で乗り込んでいた。
佐野との約束の8時まで後少しと迫ってきた時、佐野の携帯に連絡が入った。
一方 甘木は、意を決して敵陣に飛び込んでいこうとしていた。
その時、階下に降りてくる人影が見え、甘木は再び物陰へと身をひそめた。
甘木の横を、佐野と高たちが慌ただしく通り過ぎていく。
そして佐野たちは表に止めてあった車に乗り込み、急いでどこかに向かっていった。

佐野たちが出ていった後、甘木は真弓を救い出すため敵陣に乗り込んだ。
まず、真弓が捉えられている部屋の階下の見張り役たちに背中を見せ、抵抗はしないというふうに両手を挙げ、近づいていった。
そして 手に隠し持っていたキーホルダーを落とし、敵に隙ができた瞬間に、見張り役の2人を倒した。
甘木は拳銃を手に、真弓の待つ階上へと進んでいく。

茂義邸の門柱の影では、拳銃を手にした哲也が身をひそめ、賀津夫と有梨沙が現われるのを待っていた。
しばらくすると、賀津夫と有梨沙が玄関から姿を現した。
有梨沙に「外に出よう」と誘われ上機嫌の賀津夫だったが、その時 部下の広沢が、賀津夫の後を追って表に出てきた。
哲也たちを始末させようとセメント工場に張り込ませていた高の手下たちが、全員、殺られていると言うのだ。
広沢から連絡を受け、哲也がそこまで迫ってきていると感じ取った賀津夫は、哲也が身をひそめてる門柱に目をやった。
そして「有梨沙、戻るぞ」と、戸惑う有梨沙を連れて家の中に戻っていった。
寸前のところで、自分がいることを見破られてしまった哲也は、拳銃を向けながら門から身を乗り出した。
と同時に、侵入者の存在を知らせる赤いライトと、サイレンがけたたましく鳴り響いた。

家の中に戻ってきた賀津夫は有梨沙に、「朝倉が外に呼び出したんじゃないのか」と問いつめた。
だが有梨沙は答えない。
有梨沙の心を読み取った賀津夫は、「そろそろ目を覚ます頃だな」と、言葉を続けた。
その言葉を受け止めた有梨沙は、「朝倉さんに会った時から、目は覚めてます」と、言葉を返した。
有梨沙の言葉を聞き、目を見張る賀津夫。
更に有梨沙は、「朝倉さんに撃たれるか、自分が撃つか・・・」と、そこまで覚悟を決めていることを打ち明けた。
有梨沙の思いもよらぬ言葉に、賀津夫は有梨沙を抱きよせ、優しくなだめた。
そして、「敬雄にも有梨沙ぐらいの強さがあったらな」と、言葉を重ねた。

その頃 敬雄は、拳銃を握り締めながら、「新東和は誰にも渡さない」と、次なる手段に出ようとしていた。
一方 賀津夫をおびき出す作戦に失敗した哲也の前に、佐野たちが現われた。
佐野たちの出現により、自分が不利な状況にあることを知った哲也は、ひとまず茂義邸を退散することにした。

甘木は、真弓が捉えられている部屋の前まできていた。
甘木の姿を目にした真弓は、目線で室内に高の手下たちがひそんでいることを知らせた。
敵の攻撃をかわし、真弓を無事に救出することができた甘木。
甘木と真弓は、廃社屋を脱出しようと必死で走る。
そして、他の階で見張りをしていた高の手下たちは、逃げる2人の後を追いかける。
だが、廃社屋の中を逃げまとう2人は、徐々に高の手下たちに追いつめられていった。
逃げ場を失い物陰に身をかがめる2人を狙って、高の手下たちは容赦なく発砲する。
ジリジリと迫ってくる高の手下たち。
窮地に追い込まれ、諦めの表情を見せる甘木。
その時 高の手下たちの背後に、銃を構えた広木が姿を現した。
背後からの突然の攻撃に、反撃する隙も与えられず、高の手下たちは広木にしとめられていく。
広木の放つ銃弾は、確実に敵の体へと撃ち込まれていった。

高の手下たちが倒れ、辺りが静かになった時、甘木は物陰から立ち上がった。
そこで甘木が目にしたものは、銃を手にしている広木の姿だった。
広木の出現に驚く甘木。
しかし 広木は、自分の名前を呼ぶ甘木の声を無視するかのように、周りに鋭い視線を這わせていた。
甘木が広木のそばに近寄ろうと歩きだした時、広木は甘木の動きを止めた。
背後に敵の気配を感た広木は、銃を向けながらが振り返った。
が、その瞬間、広木よりも早く、高の手下たちが引き金を引いていた。
高の手下たちの銃弾は広木の体を貫き、広木はその場にくずれ込んだ。
反撃できない広木に拳銃を向けながら、近づいてくる高の部下たち。
だが その時、バイクで乗り込んできた哲也が現われたのだった。
そして 甘木も拳銃を手に、高の手下たちの前に飛び出していった。
高の手下たちは 哲也と甘木に挟まれ、2人の手によってしとめられた。

甘木は倒れている広木のそばへと駆けよった。
同じく広木のそばに駆けよってきた哲也と真弓に、「触るな!」と叫んだ。
甘木は、俺の店の名前を「TATE」と命名したのは広木なんだと、2人に聞かせた。
そして 銃弾をうけ ぐったりしている広木に、「立て!広木」と強制した。
広木は甘木の言葉に必死で応えようとするが、立ち上がることができない。
力尽き、再び床に倒れ込む広木を、甘木は抱え込んだ。
甘木に抱えられた広木は、「立てないんだ・・・」という言葉を最後に、甘木の腕の中で静かに息を引き取った。

哲也と甘木は 広木を両脇に抱え、廃社屋を後にした。
街が一望できる高台の駐車場で、甘木は哲也に、広木のことを語り始めた。
甘木と広木は大学の射撃部の同期だった。
卒業後、甘木は銀行に勤めたが、広木は内戦や紛争を追いかけて、何度も死の恐怖を味わってきた。
だが どんなに窮地に追い込まれても、広木が死ぬことはなかった、不死身の男だったと、甘木は言う。
そんな広木が5年前、ボロボロの体を引きずって日本に戻って来た。
広木は度重なる銃撃戦の後遺症で、いつ敵に襲撃されるかわからないという幻覚に襲われていた。
一ヶ所にとどまることのできない広木に、甘木がしてやれることは、安心できる 場所をたくさん提供してやることだった。
話し終えた甘木は、「広木が、こんなにぐっすり眠っているのは初めてだ」と、二度と目を覚ますことのない広木に視線を落とした。
そして甘木は、広木の体から拳銃をはずしてやると、賀津夫たちへの怒りをかみしめながら、静かに広木の冥福を祈った。
哲也もまた 広木の死を、心の中に深く刻み込んでいた。

その頃 敬雄は、ユリの店の店員に、ユリの行方を聞き出そうと冷酷に迫っていた。
ユリの居場所を突き止めた敬雄は、買い物帰りのユリの前に姿を現した。
そして、「何もかもなくしてしまった」「きみ以外、誰もいないんだ。助けて欲しい」と、哀願した。
ユリの前に力なく座り込む敬雄。
ユリは そんな敬雄の頬に手を添えながら、「そんなのは、あなたじゃない」と、言葉を返した。
更に ユリは、「自分を人質にして哲也を呼び出したところで、哲也には勝てない」と、敬雄の心を揺さ振った。
ユリの言葉を聞き、険しい視線でユリを捉える敬雄。
そして 敬雄は、ユリに一撃をくらわし、気を失ったユリを抱きかかえながら、「このまま消えるわけにはいかない」と、復讐を誓っていた。

一方 甘木は、広木を静かな場所に葬ったら、賀津夫をしとめると哲也に告げていた。
哲也は「俺は俺のやり方で、茂義を追いつめる」と、甘木に返した。
甘木は「無理をするな」と、哲也に声をかけ、車を発進させた。
甘木の車を見送り、バイクのそばに戻ってきた時、哲也の携帯が鳴った。
それは「冴木ユリを、茂義記念病院で預かっている」という、敬雄からの電話だった。
哲也は怒りの表情を見せ、バイクを敬雄の元へと走らせた。

茂義記念病院に到着した哲也は、ユリを救出すべく病院の中へと入っていった。
その頃 気を失っていたユリが、意識を取り戻し始めていた。
そして 少しずつ意識を取り戻すユリの目に、自分に拳銃を向けている敬雄の姿が映った。
だが ユリは、そんな敬雄を見据えたまま、動じることはない。
敬雄はユリに拳銃を向けながら、哲也とユリをここで闇に葬る。
もし、富士木和正殺害の告白ネタが録音されているカセットテープが見つからなかったとしても、これで全てが終わる。
夜が明けたら、何事もなかったかのように新東和を取り戻すのだと、静かな口調で言い放った。
敬雄の言葉を聞き ユリは、テープには最初から何も録音されていなかったこと を告白した。
そして、「新東和が大事なのではなく、本当はお父さんに・・・」と言いかけたユリに、「黙れ!」と、敬雄は怒りをあらわにし、再びユリに拳銃を向けた。
その時 拳銃を手にした哲也が、2人の前に現われた。
哲也は「伏せろ!」とユリに指示を送り、敬雄に銃を向けた。
敬雄もまた、哲也に銃を向けていた。
互いに向き合いながらの、激しい銃撃戦が繰り広げられた。
そして 哲也の発砲した銃弾が敬雄の脇腹にあたり、敬雄はその場に倒れた。
敬雄にとどめをさそうと、哲也が駆け寄ってくる。
だが そんな哲也を、ユリが止める。
ユリは、「闘っているのはあなただけじゃない。私もそのために帰ってきた」と哲也に訴え、哲也の手から拳銃を奪い取った。
哲也はユリの真剣な表情と言葉をうけ、凍りついたようにユリを見つめることしかできなかった。
その時、部屋の外で物音がした。
ユリは哲也を部屋の外に追い出し、今度は自分が倒れている敬雄に拳銃を向けた。
だが ユリは、敬雄に向かって引き金を引くことができない。
傷ついた敬雄はユリによって、傷の手当てをすべく病棟内へと運び込まれていった。

敬雄が銃撃されたと連絡を受けた賀津夫は、今後一切の指揮は自分がとると佐野に言い放った。
驚く佐野に賀津夫は、警察を動かすよう命じた。
一方 広沢には、マスコミに情報を流すよう命じていた。
更に賀津夫は、東洋銀行に新東和への融資を打ち切らすように仕向けていた。

佐野から司令を受け高たちは、哲也の家を物色する。
そして 甘木のBAR「TATE」は、警察の家宅捜査の手がのびていた。
目撃者の証言から、広木は犯人のひとりと断定され、「TATE」からも拳銃が発見された。
また警察は、重要参考人である甘木の行方も追っていると言う。
甘木は カーラジオから、このニュースを聞いていた。
哲也もまた、自宅でこのニュースを聞いていた。
家の中には、哲也の家を物色していた高の手下たちの死体が転がっている。
死体など気にもとめず、哲也は肉の固まりにかぶりつく。
更にニュースでは、茂義コーポレーションが新東和ファイナンスの経営から撤退する意向を示したことが伝えられていた。
また それに伴って、東洋銀行の真意撤退は必至とみられ、新東和ファイナンスが一気に経済危機に陥るだろうと、予想されていた。
そのニュースを聞き、哲也は怒りに体を震わし、苛立ちを隠せないでいる。

翌朝 甘木は真弓に、「もう一度 地下に戻って立て直す」「連絡を入れるまで身を隠すように」と告げて、姿を消した。
甘木の後ろ姿を見送りながら、真弓は深いため息をついていた。
その頃 新東和ファイナンスに、賀津夫が姿を現していた。
賀津夫は、群がってくる報道陣には目もくれず、建物の中へと入っていった。
一方、哲也の部署であるカード推進第3課では、長嶋課長を始めとする黒木たち社員も、顧客からの電話の応対に追われていた。

行方が分からなくなっていた石原は、以前 哲也と訪れことのある山中に来ていた。
湖のほとりに止めてある車の中に、石原の姿があった。
その石原の元に、佐野からの連絡が入った。
佐野は石原に、「最後の司令を出すから、今すぐ会社に出て来い」と言った。

新東和ファイナンスの玄関先では、黒木が先頭をきって、報道陣を相手に抗議を起こしていた。
その後ろから、新東和で事を済ませた賀津夫が、玄関に向かって歩いてきていた。
時を同じくして、哲也は新東和の入り口をくぐっていた。
そして2人は、黒木たち社員と報道陣の視線を受け、互いに顔を合わせたのだった。
一瞬の沈黙の後、哲也は賀津夫の前でメガネを外し、口を開いた。
「自分で潰しをかけた会社に何のようだ」と言う哲也に、「重役どもに聞け」と答える賀津夫。
更に哲也は、「新東和の身辺の整理がついた時、茂義グループが保持している新東和の株をもらいに行く」と、賀津夫に迫った。
だが 賀津夫は、そんな哲也を見て、「器は悪くないのに、残念だった」と、冷たく言い放った。
そして すれ違いざまに哲也は賀津夫に、「忘れるな。お前ら、潰してやる」と、言い捨てた。
哲也の言葉を聞き、ふっと笑みをこぼす賀津夫だったが、次の瞬間 その表情は固いものへと変わっていた。

カード推進第3課に出社した哲也、そんな哲也のことを気遣う長嶋課長。
そして黒木から、今しがた新東和の入り口で行われた哲也と賀津夫のやり取りが報告された。
哲也の勇姿を聞き、新東和再建に向けて、団結を見せる長嶋課長と黒木たちだった。
だが 哲也は、そんな同僚たちを尻目に自分の席につき、机の引き出しに隠していた拳銃を社内封筒へと移していた。
その時 カード推進第3課にドアの外に、石原が姿を現した。
石原は哲也に合図を送り、駐車場へと哲也を連れ出した。
「今まで何をやってたんだ」と聞く哲也に、「いきなり殴られて、怖くて一晩中、車の中に隠れていた」と言う石原。
そして 佐野から、「これが最後の司令だという連絡がきた」と、言葉を続けた。
石原の言葉を聞き、むなぐらを掴み 睨みつける哲也に、石原は、「嘘はついてない」と言った。
その石原の声に重ねるように、「嘘はついてないよ、裏切り者」と、佐野の声が聞こえてきた。
と同時に、拳銃を手にした佐野が姿を現した。
佐野は哲也に「会社ではさすがに丸腰だが、死ね」と言って、拳銃を向けた。
佐野に罵声を浴びせられた石原は、「豚のままくたばるか、獣になって生き抜くか、道はひとつだ」と言う、哲也の言葉を思い出していた。
次の瞬間 石原は、佐野に向かって駆け出した。
突然 目の前に走り出してきた石原に向かって、佐野は発砲した。
佐野の銃弾に石原が倒れ、哲也は封筒から拳銃を取り出し、拳銃を佐野に向けた。
哲也に拳銃を向けられた佐野は、哲也の殺気に体を震わせ、なかなか発砲することができない。
そして佐野は取り乱しながら、その場を逃げ去った。

佐野の後を追おうとする哲也の足を、石原がつかんだ。
石原は、「獣になりたかっただけなのに、こんなのでいいのかよ」を、哲也に答えを求めた。
哲也は石原を抱き寄せ、「お前は豚じゃなかったよ。お前は獣になった」と答えてやった。
哲也の言葉を聞き安心したのか、石原はそのまま息を引き取った。

一方 賀津夫の元に佐野から連絡が入っていた。
佐野は賀津夫に、哲也をしとめられなかったことを詫びた。
そして、責任は感じているが、自分は殺し屋じゃないので絶対と言うわけにはいかないと、賀津夫に言った。
佐野の言葉を聞き 賀津夫は、「お前も疲れているんだろう。ゆっくり休め」と言葉をかけた。
電話を切った賀津夫は、広沢に、「佐野は疲れているようだ。ゆっくり眠らせてやれ」と、始末することを命じた。
賀津夫との電話を終えた佐野は、酒を飲みながら、哲也との銃撃戦を思い出していた。
拳銃を向けられて あんなにびびったのは、佐野にとって初めてのことだったようだ。
飲み屋を後にし、雑踏の中を歩く佐野。
その時、佐野の背後に広沢が忍びよってきた。
広沢は佐野の背中に銃口をあて、銃弾を発射した。
次の瞬間、佐野の体は、道路へと崩れ落ちた。
賀津夫に一瞬でもはむかった佐野は、賀津夫の命令により葬られてしまったのだ。

賀津夫は高を呼び寄せ、高に手付けの一部だという多額の現金と哲也の写真を渡し、哲也を始末するよう依頼した。
賀津夫の依頼を快く引き受ける高に賀津夫は、「変わらんな」と言う。
高は賀津夫は変わったというが、だが、昔のような「血に飢えた狼に戻った」と言った。
そして 高は哲也の写真を指差し、「血、肉、骨、全てをミンチにする」と続けた。
高の言葉を聞き 賀津夫は「殺れ」と命じた。

哲也は石原の遺体を担ぎ、茂義邸へと向かっていた。
そして茂義邸に着くと、石原の遺体を家の前に置き、「石原、見てろよ」と、茂義邸に侵入していった。
賀津夫の姿を捜す哲也の前に、賀津夫の部下たちが立ちはだかる。
敵を確実にしとめながら茂義邸の中を進んでいく哲也は、有梨沙の部屋へと入っていった。
哲也は部下にとどめを刺し、ここに賀津夫がいないことを知った。
その時、机の上に置いてある有梨沙の携帯電話が鳴っていることに気がついた。
敵の返り血を浴びた哲也は、険しい表情でその携帯電話に目をやった。

哲也の銃弾を脇腹にくらった敬雄は、病院で治療を受けていた。
敬雄のそばに付き添いながら ユリは、和正のことを思い出していた。
その時 人が来ることを感じたユリは、敬雄の病室から離れた。
廊下に出たユリは、賀津夫と有梨沙とすれ違う。
賀津夫は敬雄の部屋から出てきたユリのことが気になったが、そのまま病室へと入っていった。
賀津夫は、ベットに横たわる敬雄に向かって、「わしの言うことを聞かないから、こういうことになるんだ」と言った。
そして有梨沙には、「敬雄は本当は優しい心を持っている人間だ。だが その優しさは、この世の中を強く生きていく者には必要ない」と言いきった。
更に 有梨沙に、自分の両親よりも、もっと強く生きるんだと言い、病室を出ていった。
病室に残された有梨沙に広沢は、「茂義コーポレーションの後継者として、初めての仕事です」と、賀津夫の指示を伝えた。

病室を出た賀津夫は看護婦に、ユリのことを尋ねてみた。
だが 看護婦からは、敬雄をここに連れて来た女性だということだけしか聞けなかった。
病院を出てきた賀津夫の行く手には、賀津夫に向かって歩いてくる甘木の姿があった。

真弓は甘木から乗り捨てろと言われていた車の中で、甘木のことを考えていた。
そして 真弓の元に、手配中の甘木の車を発見した警察官が近づいてきていた。

家に戻ってきた哲也は、警戒し拳銃を構えながら、家の中へと入っていった。
すると そこには、ソファーに座っている有梨沙の姿があった。
「何をしているんだ」と言い、哲也は有梨沙に銃を向けた。
有梨沙は、自分に銃を向けている哲也に向かって、「どんな人よりも、私はあなたが好き」と言った。
まっすぐ哲也を見つめる有梨沙に、哲也は動揺を隠せない。
哲也は「俺に殺されたいのか!」と、有梨沙に向かって暴言をはいた。
その哲也のすぐ上には、哲也のことを狙っている賀津夫の部下の姿があった。
いねの今週のベスト・ショット

それまで会社の中でメガネを外したことのなかった哲也が、
賀津夫の前でメガネを外し、新東和を潰そうとしている賀津夫に向かって、
たんかを切っているの姿は、ホントに凛々しかったです。
敬雄よりも大きな敵を前に、怯むことなく挑んでいった哲也が、
今週のベスト・ショット!
そして 賀津夫とすれ違う瞬間に、「忘れるな。お前ら、潰してやる
と言った哲也には、かなりクラクラきちゃいました(笑)!
おまけ

その時のバックに映っていたイーストカードの下の「VIVA」の文字、
哲也が賀津夫と闘おうとしているこの瞬間に、笑っちゃいけないのに、
思わず吹き出しちゃいそうになりました。(^^;
いねのもう少しだけ言わせて〜

どんどん いろんな人が葬られていってますね。
甘木を助けるために命を落とした広木。
そして、獣になりたかっただけだと哲也に告げて、息を引き取った石原。
哲也も甘木も、茂義たちの陰謀によって、またひとり、大切な人を失ったんですね。
・・・でも まさか、佐野までが消されるとは思わなかったなぁ。

それから ここにきて、急展開をとげたのがユリと有梨沙ですね。
恋人を殺されたユリは、憎んでいたはずの敬雄をしとめることができなかった。
それどころか、傷をおった敬雄を病院へと運ぶ。
そして 有梨沙は、好きになってはいけない相手に恋をして、
「殺るか、殺られるか」の覚悟を決めていた。
でも なんだか、この2人の辛い気持ちもわかるような気がするな・・・。


■第十話「愛娘の死、生き残るのはどっち」 〜1999年6月19日〜

あらすじ

敬雄ユリを人質に取られた哲也は、ユリを救出するため、茂義記念病院へと向かった。
激しい銃撃戦の末、哲也は敬雄の脇腹に傷を負わすが、敬雄をしとめることはできなかった。
敬雄が哲也の銃弾に倒れたという知らせを聞き、賀津夫は「今後一切の指揮は私が取る」と宣言する。
そして有梨沙を茂義コーポレーションの後継者と考え、有梨沙に哲也をしとめるよう命じた。
哲也が家に戻ってくると、ソファーに座った有梨沙の姿があった。
哲也は「何してるんだ」と、有梨沙に銃を向けながら言った。
有梨沙は「どんな人よりも、私はあなたが好き。」と、哲也をまっすぐに見つめ返した。
哲也は有梨沙の言葉に動揺しながら、「俺に殺されたいのか!」と暴言をはいた。
その哲也の頭上には、哲也のことを狙っている賀津夫の部下・広沢の姿があった。

哲也は有梨沙に銃口を向けたままだが、今度は穏やかな口調で「茂義ファミリーはみんな死ぬんだ。順番を間違えんな。」と言い、表の方に目をやった。
哲也の家の外では、の手下たちがジリジリと迫ってきている。
表に敵がいることを感じ取った哲也が そっちに向かって歩きだした時、哲也の頭上から広沢が飛び降りてきた。
広沢は哲也に向かって発砲するが、間一髪で哲也は広沢の銃弾をかわした。
その瞬間、有梨沙が広沢に向かって飛び出した。
有梨沙は哲也を助けるため、必死で広沢にくらいつく。
身を持ち直した哲也は広沢を倒そうと銃口を向けるが、有梨沙が広沢の前に覆いかぶさっているため、狙いが定められないでいる。
哲也は機転をきかし、広沢の横にあったサンドバックに蹴りを入れ、サンドバックを広沢の体にあて打撃をあたえた。
サンドバックをあてられた広沢はよろめき、拳銃も手から離れた。
その反動で有梨沙も広沢の体から弾き飛ばされた。
次の瞬間、哲也は広沢に銃口を向け発砲した。
抵抗するまもなく広沢は、哲也によって始末された。

有梨沙は とっさに、床に転がっている広沢の拳銃をつかみ、その拳銃を哲也に向けていた。
だが、引き金を引くことができない。
哲也は有梨沙の行動を見て、有梨沙を見据えたまま、一歩ずつ有梨沙へと近づいていく。
そして、有梨沙が手にしている拳銃の銃口を自分の胸に押し当てると、有梨沙を見つめたまま、手からゆっりく拳銃をはずした。
哲也は有梨沙から取り上げた拳銃をしまい、それから、有梨沙の頬を鋭くぶちかました。
哲也に頬をぶたれた有梨沙は、うつむいたまま哲也の胸を叩き、やりきれない気持ちを哲也へとぶつけた。
哲也は そんな有梨沙を、「朝倉哲也を助けたかったのか、獣をばらしたかったのか、はっきりしろよ!」ととがめ、そして抱きよせた。
有梨沙が再び顔をあげ、哲也の目を見つめ返した時、哲也は有梨沙に、表に敵が何人いるのか確認した。
そして 高の手下たちが今にも侵入しようとしている時、哲也は有梨沙をバイクの後ろに乗せ、家の中から飛び出した。
有梨沙を盾に使われ、高の手下たちは手が出せないでいる。
哲也はバイクを走らせ、高の手下たちは その後を追いかけた。

その頃
茂義記念病院では、敬雄の見舞いを終え病院を出てきた賀津夫の前に、甘木が姿を現していた。
甘木は賀津夫に向かって発砲するが、銃弾は賀津夫の横をすり抜ける。
そして、次の瞬間、甘木は高の手下たちに周りを取り囲まれていた。
甘木はそばに止めてあった賀津夫の車に乗り込み、その場を逃げ去った。
だが車を走らせてしばらくすると、甘木と同時に車に忍び込んだ高の手下が、後部座席から銃を突き付けながら現われた。
高の手下は甘木の後頭部に一撃をくらわし、そして甘木は、そのまま気を失ってしまった。

古池真弓は、乗り捨てろと言われた甘木の車の中で、甘木のことを考えていた。
その真弓の元に、指名手配中の甘木の車を発見した警察官たちが近づいてきた。
警察官に気づいた真弓は逃げようとするが、真弓はそのまま警察官たちに取り押さえられてしまった。

一方 哲也は、追ってくる高の手下たちから無事に逃げきっていた。
バイクを降り、敵が追ってこないのを確認すると、哲也は有梨沙に「もういい。もう帰れ」と言うが、有梨沙は帰ろうとせず、哲也の後を追いかける。
有梨沙は必死に哲也の後を追うのだが、角を曲がってきた時、哲也の姿を見失ってしまった。
が、その時、哲也がブティックの中から出てきた。
そして哲也は、広沢の返り血を浴びた有梨沙の服をひっぱり、「着替えろよ」と、手に持っていた紙袋を有梨沙に押し付けた。

高の手下によって拉致された甘木は、茂義記念病院の賀津夫の元へと連れて行かれていた。
賀津夫と甘木が顔を合わせた時、賀津夫の元に、「哲也とともに有梨沙の姿を見失った」という連絡が入った。
その報告を聞いた甘木は賀津夫に、「孫娘まで巻き込んでいるのか」と、嘲笑うように言った。
だが賀津夫は、「有梨沙はいずれ自分の後を継ぐ。それに、朝倉には有梨沙は殺せない。」と、穏やかな口調で返した。
そして、人質にされていることを忘れるなと忠告し、更に、「いつまであんな子供と遊んでいるつもりだ。よく考えるんだな」と、甘木の心に揺さ振りをかけた。

哲也は服を着替えた有梨沙に向かって、「それで安心だろ。もう帰れ」と言うが、有梨沙は哲也の背中を見つめたまま動こうとしない。
有梨沙は、哲也を殺せと言う賀津夫の約束を守れなかったから帰る場所がないと言った。
有梨沙の言葉を聞き哲也は、「爺は俺が殺してやる。そしたら戻れるだろ。」と言い、更に、「それがいやなら、今殺してやる。死んだら戻れる。」と、言葉を続けた。
哲也は有梨沙にそう答えることで自分たちの関係を確かめさせ、哲也に対する有梨沙の気持ちを振り切ろうとしていた。
そして 有梨沙の方に振り返りながら、「俺はお前の爺をやる。爺はどこにいるんだ。」と、賀津夫の居場所を聞き出そうとした。
有梨沙は「言えない」と答えた。
哲也は、「それなら親父にとどめを刺す」
「あの病院は救急の患者を受け入れているのか」と、有梨沙に迫った。
有梨沙は「そんなの違う」と問いただすと、早く自分を撃つよう哲也に切り返した。
哲也は有梨沙の気持ちに応えようとせず、有梨沙の前から立ち去ろうとしていた。
だが、哲也が有梨沙の前を横切った時、有梨沙は哲也のズボンに挟んであった拳銃を抜き取り、哲也の背中に銃口を向けた。
哲也は「やっと同じ立場になれたな」と言い、以前、有梨沙の背中に拳銃を向けたことがあったが、その時に撃たなかったのは、同じ獣の匂いがしたからだと続けた。
そして 有梨沙の方へ振り返り、「お前、今いい顔してるよ」と、有梨沙に近づいていった。
哲也は、「いつか2人が人間に戻れる時があったら、俺はお前をものにする」と言い、有梨沙が手にしている拳銃を取り上げた。
哲也は有梨沙の方を振り向くことなく、また有梨沙も哲也の後を追うことなく、2人はその場を別れた。

病室のベットで敬雄が目を覚ますと、そこには敬雄に付き添っているユリの姿があった。
敬雄はユリに、「なぜ俺を殺さない」と問いかけた。
ユリは「チャンスは何度でもあったけど、こんなことを繰り返して誰が救われるの。私の大切な人もみんな傷ついた」と、言葉を返した。
そして「自分たちが背負ってしまった取り返しのつかない罪の、本当の原因は何だったのかしら」と、敬雄に迫った。
更に「お父さんを越えたくて道を踏み外してしまったのなら、今こそ、お父さんの存在を消す時じゃないかしら」と、言葉を続けた。
敬雄はユリから視線を外したままだが、ユリはかまわず、「人間は生きてる間にもう1度生まれ変わることができるって、そう信じている」と、語りかけた。
敬雄は黙り込んだまま、ユリを見ようとしない。
ユリはそれだけ伝えると、敬雄の病室を後にした。

賀津夫は病院の警備室の監視カメラで、病院に戻ってきた有梨沙の姿を確認していた。
そして高の手下たちに、出入り口を全て固めるよう指示を出していた。
また哲也が患者を装って乗り込んでくることも見込んで、救急センターの出入り口も見張らせるよう命じた。
賀津夫は「どこから来ても、今度が最後だ」と、哲也が乗り込んでくるのを楽しんでいるかのようだ。
更に「こっちには預かり者がある」と、監視カメラに目をやった。
監視カメラは、賀津夫に拉致されている甘木と、敬雄の病室を後にしたユリの姿を捉えていた。
有梨沙は この様子を、警備室のドアの隙間から見ていた。
そして哲也が、「あの病院は救急の患者を受け入れているのか」と聞いていたことを、思い出していた。
その頃、哲也は遊園地から、「若い男が倒れているんですけど・・・」と、茂義記念病院に連絡を入れていた。

賀津夫は敬雄の病室に訪れ、哲也とつながっているユリを野放しにしている敬雄を叱咤した。
そして「お前は甘すぎる」と敬雄を指摘し、ユリの行方を問い詰めた。
だが敬雄は賀津夫の問いかけには答えず、拳銃を貸してほしいと、賀津夫に告げた。
「誰を殺るんだ」と言う賀津夫に、敬雄は「あの女を殺る」と答えた。
賀津夫は「女を殺る時は心が緩む」と言い、銃弾を一発だけ詰め込んだ拳銃を敬雄に渡し、「しっかり殺れ」と命じた。

有梨沙は哲也にこのことを知らせるため、廊下に設置されてる監視カメラと見張り役の目を盗んで、救急センターの入り口に急いでいた。
その時、廊下でユリとすれ違った。
有梨沙はユリを呼び止め、「私と一緒にきてください」と、ユリの手を引っ張っていった。
有梨沙は茂義一族しか出入りできない秘密の抜け道にユリを連れて行くと、入り口のセキュリティーを外す暗証番号を教え、そのことを哲也に伝えて欲しいと頼んだ。
そして「でも、あなたが・・・」と問いかけるユリの言葉を遮って、「私も茂義の一員です。私の口からは言えません」と答えた。
ユリは有梨沙を抱きしめ、「あなた、朝倉さんにどこか似てる」と言うと、その抜け道から表へと向かった。
ユリを逃がすと有梨沙は再び、救急センターの入り口へと急いだ。

有梨沙が入り口にたどり着いた時、救急患者を乗せた救急車が到着していた。
救急車を取り囲むように、賀津夫の命令を受けた刺客たちが銃を構え、哲也が現われるのを狙っている。
有梨沙は刺客たちの姿を確認し救急車に駆けよるが、救急車で運ばれてきたのは階段から落ちた妊婦だった。
が、その時、「この近くの遊園地で若い男がぶっ倒れているから、すぐに行くぞ」と話している、救急隊員の声が聞こえてきた。
有梨沙は その男が哲也だと直感し、「その人と知り合いなので連れていってほしい」と、救急車に同乗した。
有梨沙が救急車に乗り込むところを監視カメラで見ていた賀津夫は、手下の1人に有梨沙の後を追うよう命じた。
有梨沙は救急車の中で、初めて哲也に会った時のこと、そして、哲也と交わした言葉を思い出していた。

救急車が遊園地に到着した。
有梨沙は救急車から降りると、倒れたふりをしている哲也のそばに駆けより、今病院に行くと賀津夫に殺されると伝えた。
哲也は有梨沙に「何考えてんだよ」と言うと、有梨沙は「ただあなたのそばにいたい」と答えた。
そして「私にとって1番大切なものを守りたい」と、言葉を続けた。
有梨沙の言葉に哲也は動揺しながら、救急隊員に目を向け、「帰れよ」と促した。
だが 救急車が走り去ると、その後ろから有梨沙の後を追ってきた高の手下が拳銃を手に現われたのだった。
高の手下は、哲也に向かって発砲した。
哲也はその銃弾をかわし、手下に向かって銃を構えた。
その時 有梨沙は哲也をかばおうと、2人の間に飛び出した。
そして有梨沙は高の手下の銃弾を背中にうけ、そのまま哲也の胸に倒れこんだ。
哲也は有梨沙の体を受け止め、怒りをあらわに高の手下の心臓めがけて銃弾をぶち込んだ。

高の手下が哲也の銃弾に倒れると、哲也は有梨沙の方を向き、「お前はまだ死ぬ順番じゃないだろ」と、声を詰まらせた。
有梨沙は哲也を見上げながら「いつか本当に・・・?」と問いかけると、哲也は声を震わせながら「お前をものにする」と答えた。
哲也の言葉を聞き、有梨沙は哲也の腕の中で、静かに息を引き取った。
哲也は悲しみを堪えながら、永遠の眠りについた有梨沙の体を抱きしめていた。
そして「獣に涙は似合わない。だけど、お前だけは人間に戻った。俺はまだ獣道のど真ん中にいる」という言葉を残し、有梨沙の身をメリーゴーランドにあずけ、遊園地を後にした。

賀津夫は霊安室の中で、有梨沙と再会した。
そして有梨沙に近づいていくと、「起きなさい」と語りかけた。
だが有梨沙は、二度と目を覚ますことはない。
賀津夫は有梨沙を失った悲しみのあまり、半狂乱に「どいつもこいつもぶっ殺す」と、つぶやいた。
賀津夫はその足で拉致している甘木の元へ行き、甘木に拳銃を向けた。
が、「ご自分の手を汚すのはお止めください」という、部下の言葉に遮られた。
部下は高の手下に甘木の始末を促すが、悲しみをこらえることのできない賀津夫は、高の手下に向かって発砲した。
そして賀津夫は「何やってんだ」と叫びながら、その場を後にした。
賀津夫の異様なまでの取り乱しように、甘木は、「どうしたんだ」と部下に尋ねた。
部下は「お孫さんを亡くされたんだ」と甘木に告げると、その場を去っていった。

敬雄は病室で、有梨沙の血のついた服を手にしていた。
そして有梨沙の服から、賀津夫と敬雄と有梨沙の3人が写ってる写真を見つけると、どうしようもない悲しみに襲われた。
敬雄は賀津夫から借りた拳銃を取り出すと、それをこめかみにあて引き金を引いた。
だが銃弾は発射されず、空発のまま終わった。
死ぬことができなかった敬雄は、「有梨沙、生きて何をするっていうんだ」と、途方に暮れていた。

哲也とユリは河原で再会した。
ユリは有梨沙からの伝言を記した紙切れを哲也に渡した。
哲也は「富士木家の墓に返しておいてくれ」と、和正の位牌をユリに預けた。
そして「俺が死んでも骨は拾わないでほしい」と言い、ユリの前を去ろうとした。
ユリは哲也を呼び止め、新東和が今朝から業務を停止したことを知らせた。
だが哲也は「賀津夫を殺る方が先だ」と言い、心配そうに見つめるユリに「生きてて欲しい。それだけだ」と、言葉を返した。
哲也の言葉を受け止めたユリだったが、「私ももう待つだけじゃない」と、自分の気持ちを打ち明けた。

一方 賀津夫は、怒りの表情から一転して、穏やかな口調で甘木に接した。
そして言葉巧みに、甘木の心を揺さ振り始めた。
まず、甘木が人質に取られているのに助けにこない哲也を変だと言い、そして哲也が、甘木と広木のことを警察に売ったのだと言った。
賀津夫は、哲也が仕組んだとしか考えられないと、甘木の顔を覗きこんだ。
甘木は賀津夫のことを笑い飛ばした。
賀津夫は更に、哲也は敬雄を撃つという目的のひとつは果たした。
後は、新東和ファイナンスを自分の思い通りにすることだと言い、哲也にとって邪魔な存在は賀津夫と甘木なのだと続けた。
甘木は賀津夫の言うことなど相手にせず、早く始末してくれと言い返した。
だが賀津夫は「きみほどの器の人間はめったにいない」「きみ意外に頼れる男はいない」と言った。
その言葉を聞き「頭がおかしくなったんじゃないか」と言う甘木に、賀津夫は「ビジネスをする頭だけは残っている」と、返した。
そして賀津夫は警察に電話を入れ、甘木の捜査の打ち切りと、真弓を釈放することを約束させ、甘木に真弓を迎えに行ってやるよう命じた。

哲也が茂義記念病院に着いた時、ちょうど甘木が車に乗り込むところだった。
車のそばには、甘木を見送る賀津夫と高の手下たちの姿もあった。
哲也は柱の影からその様子と見るが、何が起こっているのかわからず戸惑いを隠せないでいる。
が、甘木を乗せた車が走り去った後、哲也は賀津夫に向かって発砲した。
哲也の銃弾は賀津夫のそばの高の手下をしとめるが、銃声とともに、賀津夫の身は高の手下たちに囲まれてしまった。
哲也は賀津夫に向かって銃を撃つことを遮られ、「待ってろ!茂義!」と叫び、その場を後にした。
賀津夫は哲也の後ろ姿を見送りながら、高笑いをした。

警察から釈放され、真弓が外に出て行くと、そこには真弓を迎えにきた甘木の姿があった。
「地下で立て直す」と姿を消したはずの甘木を見て、真弓は不思議そうな顔をした。
甘木は そんな真弓を見て、軽く苦笑いを浮かべた。
甘木は真弓を「TATE」に連れて行くと、「今日でこの店もCLOSEだ。そして今までの俺は全部捨てる」と、宣言した。
真弓は甘木の言葉に反して、「私は、新東和を最後まで見届けます」と、答えた。
その言葉を聞くと甘木は、「哲也が会社にいたら、店に顔を出すよう伝えてくれ」と、真弓に促した。

新東和ファイナンスに現われた哲也は、固く閉ざされている門を乗り越え、敷地内に入っていった。
そして会社の入り口に貼ってある「業務停止」を知らせる張り紙を、忌々しげに破り捨てた。
建物に中はガランとして、人の姿は見当たらない。
だが 哲也が廊下を歩いていくと、哲也の所属するカード推進第3課から話し声が聞こえてきた。
長嶋課長黒木たちが常務を交えて、新東和再建に向けての熱い気持ちと、富士木前社長の思い出話しを語っていたのだった。
哲也は足を止めて、その会話に耳を傾けていた。
その会話の中に、新東和が業務停止になってしまったのは、茂義グループのせいだけではなく、甘木が裏で手を貸してしたからだという話しがなされていた。
甘木が新東和の経理情報を盗みだし、東洋銀行にリークしたため、それが東洋銀行撤退の引き金となって、新東和は業務停止に追い込まれたというのだ。
その話しを聞き終え、哲也が会社を出ていこうとしていた時、真弓が哲也を呼び止めた。
そして真弓は甘木からの伝言を伝えると、甘木の様子がおかしいことも哲也に告げた。
真弓は甘木の行動からして、茂義と手を組んでいるとしか思えないと言った。

賀津夫が敬雄の病室に行ってみると、ベットの上に敬雄の姿はなかった。
再び廊下に出ると、敬雄は廊下の隅に立っていた。
賀津夫が声をかけると 敬雄は、「親父、死んでくれ」と、手に持っていた拳銃を賀津夫に向けた。
賀津夫は動じることなく、「根性が戻ったな」と、険しい表情を見せながら敬雄を見つめた。

哲也は甘木の伝言を聞き、「TATE」に現われた。
甘木の姿を探して店の奥に入っていくと、店の奥から哲也に向かって発砲する甘木が姿を現した。
ふいをつかれた哲也は柱の影に身を隠すが、甘木の攻撃は容赦なく続く。
そして哲也は、甘木に対する怒りをあらわに、「甘木!」と叫びながら、反撃のチャンスをうかがっていたのだった。
いねの今週のベスト・ショット

哲也と有梨沙の2人だけのシーンって、すごく印象に残るシーンが多いですね。
今週は哲也ではなく、哲也に自分の命を捧げた有梨沙がベスト・ショットです。

私にとって1番大切なものを守りたい」と、有梨沙は言った。
そして 哲也を狙う刺客の前に飛び出し、刺客が発砲した銃弾を背中で受け止めた。
有梨沙は、そのまま哲也の腕の中に倒れこんだ。
哲也は有梨沙を受け止め、刺客の心臓に銃弾をぶちこんだ。
哲也の銃弾に刺客が倒れると、哲也は有梨沙を方を見た。
有梨沙は哲也を見上げると、遠のいていく意識の中で哲也に問いかけた。
「いつか本当に・・・」
「・・・お前をものにする」と、哲也は答えた。
その言葉を聞き、有梨沙は永遠の眠りについたのだった・・・。
おまけ

いつか2人が人間に戻れる時があったら、俺はお前をものにする
きゃぁ〜! むちゃくちゃ かっこいいよぉ〜。慎吾ぉ〜。
あ〜〜、こんなこと言われてみたい・・・。(^^;
いねのもう少しだけ言わせて〜

「敵を欺くには、まず味方から・・・」
甘木にはそうあってほしいと思います。
そして賀津夫をしとめた哲也には、安らぎを与えてあげたい。
最後は、幸せそうに笑ってる哲也の顔が見たい。
ただそれだけです。


■最終話「怒りの最終決戦! 生か死か」 〜1999年6月26日〜

あらすじ

いつか2人が人間に戻れる時があったら、俺はお前をものにする
私にとって1番大切なものを守りたい
哲也を守ろうとした有梨沙は、高の手下の銃弾を背中にうけ、哲也の腕の中で永遠の眠りについた。

獣に涙は似合わない。だけど、お前だけは人間に戻った。俺はまだ獣道のど真ん中にいる
冷たくなった有梨沙の体を抱きしめながら哲也は、茂義との最後の戦いに挑もうとしていた。

どいつも こいつも、ぶっ殺す
賀津夫は病院の霊安室で有梨沙の遺体と対面した。
愛孫を失った悲しみから取り乱していた賀津夫だったが、有梨沙の死を認めると、哲也との決着をつけるため、ある策略をたてていた。
賀津夫は警察に電話を入れ、甘木の捜査の打ち切りと真弓の釈放を約束させ、甘木の身を自由にしてやった。
そして甘木に、茂義コーポレーションの会長のイスをエサに、哲也を始末することを命じた。

親父、死んでくれ
敬雄もまた、愛娘を失った悲しみを隠せないでいた。
一旦は自らの命を絶とうとした敬雄だったが、死ぬことさえも許されなかった。
そして敬雄の悲しみは、父である賀津夫へと向けられたのだ。
敬雄は、病室に見舞いにきた賀津夫に銃口を突きつけたのだった。

生きててほしい。それだけだ
私も もう待つだけじゃない
哲也は茂義の元に行く前に、ユリに兄の遺骨を預けた。
そしてユリに、生きててほしいと言うが、ユリは、そんな哲也の気持ちを受け止めながらも、自分も闘うために戻ってきたのだと言葉を返した。

甘木!
哲也は甘木に「TATEへ来い」と呼び出された。
哲也が店の中に入っていくと、店の奥から哲也に向かって発砲する甘木が姿を現した。
甘木は容赦ない攻撃を続ける。
哲也は柱の影に身を隠しながら、甘木に対する怒りをあらわに、反撃のチャンスをうかがっていたのだった。

甘木の激しい攻撃をうけながらも哲也は、甘木が発砲した銃弾を数えていた。
5発目の銃弾を撃った後、甘木はふと足元に目をやった。
そして哲也に向かって、この世界に足を踏み入れるなと忠告しただろと言い、6発目の銃弾を発砲した。
6発目の銃声を聞いた哲也は柱から身を覗かせ、甘木への反撃にでるのだが、甘木はもう一丁 手にしていた拳銃で、哲也に向かって銃撃を続けた。
哲也は再び柱の影に身を潜め、甘木のマジな攻撃に動揺を隠しきれないでいた。
甘木は哲也に銃口を向けたまま、こう言った。
「茂義を叩き潰そうとしゃかりきになっていたのはガキの甘木で、大人の甘木は、これから茂義コーポレーションの会長になる」
「会長になる条件は、お前の冷たくなった体を、現会長の茂義賀津夫氏に引き渡すことだ!」
その言葉を聞くと哲也は、「お前に信念はないのか」と、甘木の本心を聞き出そうとしたが、甘木はそんな哲也を嘲笑った。
そして「信念とか、女とか、そんなものは、年を取れば取るほど だんだん曖昧になってくるもんだ」と、挑発的な言葉を返した。
思ってもいなかった甘木の言葉をきっかけに、哲也は柱の影から姿を現し反撃にでた。
甘木は哲也の攻撃をかわしながら柱の影に身を隠すと、「足を撃たれたにしちゃ、動きがいいな、哲也」と言った。
その言葉を聞いた哲也は、これが甘木の作戦であることに気がついた。
哲也と甘木は軽く目線を合わし、そして「汚ねぇなぁ」という哲也の言葉に続けるように、「大人は汚ねぇんだよ」と甘木は言い、哲也に向かって発砲したのだった。

賀津夫敬雄の病室に行ってみると、ベッドの上に敬雄の姿はなかった。
再び廊下に出てみると、廊下の隅で頭をうな垂れた敬雄が立っていた。
賀津夫が近づいていくと敬雄は頭を上げ、「親父、死んでくれ」と、手に持っていた拳銃を賀津夫に向けた。
賀津夫は動じることなく敬雄に一歩ずつ近づいていき、銃口を自分の胸に押し当てると、「撃っていいぞ」と促した。
そして「撃て、敬雄」と言うと、敬雄は険しい表情で賀津夫を見つめながら引き金を引いた。
だが、それは空弾だった。
拳銃の中に銃弾は一発も仕込まれてなく、敬雄はそれを賀津夫に見せると、声をたてて笑いながら その場に座り込んだ。

「TATE」には、哲也を入れた寝袋を厳重に縛っている甘木の姿があった。
甘木は、賀津夫に挑みかかっていこうとしていた哲也の青臭さを非難する言葉を淡々と述べていた。
だがそれは哲也に聞かせるものではなく、靴底に仕込まれた盗聴器を通して賀津夫に聞かせるためのものだった。
それが甘木の狙いだったのだ。
賀津夫は甘木の靴底に仕込んだ盗聴器から、その様子を全て聞いていた。
部屋の中には、闘う気力を失っている敬雄の姿もあった。
賀津夫は敬雄に向かって、富士木和夫と出会った時のことを話し始めた。
富士木は多くのものを持ち、自信に満ち溢れていた。
そんな富士木に負けたくなかったから、何も守るものがないことを強みにして、獣になることを決心した。
富士木に負けるわけにはいかなかったのだと、賀津夫は言った。
そして、新東和のことは忘れて次の獲物を狙えと、言葉を続けた。
だが敬雄は賀津夫の申し入れを断り、賀津夫がお膳立てしてきた道を歩くのは終わりだと言った。
今まで手に入れたものを失いたくはなかったが、哲也がしたたかで強いのは失うものが何もないからだということを悟り、そして敬雄は、失うものはもう何もないと賀津夫に告げた。
賀津夫は「わかった」と一言だけ言うと、ゆっくり瞳を閉じた。

その頃 ユリは、哲也から預かった和正の遺骨を富士木家の墓に納めにきていた。
そこに「茂義会長がお呼びだ」と、賀津夫の部下が現われた。
賀津夫の部下はユリに拳銃を向けるが、逆にユリに拳銃を突きつけられ、手にしていた拳銃を取り上げられたしまった。
そしてユリは、「お迎えがなくても、こっちから出向こうと思ってたの。案内して」と、強気な態度で迫ったのだった。

新東和ファイナンスの入り口では、長嶋課長黒木たちが茂義グループに対する抗議を起こしていた。
だが長嶋課長たちは警備員たちに取り押さえられ、どうすることもできないでいる。
長嶋課長と黒木が途方に暮れていると、甘木から連絡を受けた古池真弓が2人の前に現われた。
真弓は新東和再建のため、2人を奮い立たせようとしていた。

甘木が茂義記念病院に現われた。
甘木は廊下に群がる賀津夫の部下たちを尻目に、哲也を入れた寝袋を引きずっていき、それを賀津夫の前に差し出した。
賀津夫は寝袋のチャックを開くと哲也の頬に手をあて、冷たくなっていることを確かめた。
だがそれだけでは安心できない賀津夫は、部下の背広から拳銃を取り出すと、哲也の胸部めがけて数発の銃弾をぶち込んだ。
そして哲也が動かないのを確認すると、甘木に向かって乾杯しようと言った。
甘木は そんな賀津夫に、「茂義コーポレーションの会長の座をいつ渡してくれるんだ」と、聞き返した。
賀津夫は軽く笑うと、「茂義賀津夫という男を調べ尽したんだろ」と、試すような口調で言った
甘木はそれに答えるように、賀津夫が新東和ファイナンスに行った数々の悪事を話し、そして賀津夫に相づちを求めた。
賀津夫は「新東和を落とすのは簡単なことだった」と言い、他に知ってることはないかと、甘木に問いかけた。
甘木は「俺が気絶してる間に靴の踵に盗聴器を仕込んで、朝倉との対決を楽しんでいただろう」と返した。
賀津夫は少し表情を固くしながら「気が付いていたのか」と言うと、その場を去ろうとしていた。
だが甘木はすかさず「こっちも同じことをやらせてもらったよ」と、自分の腕時計を指差した。
その腕時計には盗聴器が仕込んであり、その会話は「TATE」にいる真弓によって録音され、長島課長と黒木もその会話を聞いていたのだった。
甘木は、それを東洋銀行に持っていくよう指示をだした。
そして寝袋のチャックを哲也の胸元まで開くと、そこには防弾チョッキを身に付けドライアイスをまとった哲也の姿が現われたのだった。
甘木が「な、大人は汚ねぇだろ」と哲也に語りかけると、哲也は目を開き、手にしていた拳銃2丁を甘木に渡した。
と同時に哲也も体を起こし、両手に拳銃を構え、2人は賀津夫に向かって銃撃を始めたのだった。

哲也と甘木は2丁の拳銃を構え、賀津夫に向かって激しく発砲する。
だが2人の銃弾は防弾ガラスに遮られ、賀津夫の体には届かない。
2人の銃弾がなくなると、賀津夫は嘲笑い、そして「わしを調べたわりには詰めが甘かったな」と罵り、その場を去っていった。
哲也と甘木は賀津夫の後を追おうとするが、部屋の隠し扉から出てきた高の手下たちの銃撃にあい、賀津夫を追うことを断念した。

「TATE」では 真弓たちが、甘木の腕時計の盗聴器からこの様子を聞いていた。
鳴り止まない銃声に、哲也と甘木の身を案じる真弓たち。
取り乱した黒木が警察に知らせに行こうとするが、真弓が今は警察も敵だと言い、黒木を止める。
3人は盗聴器から聞こえてくる音を頼りに、哲也と甘木を見守ることしかできなかった。

哲也と甘木は高の手下たちと激しい銃撃戦を繰り広げながら、賀津夫の後を追った。
哲也は「賀津夫が逃げるとしたらファミリー専用の抜け口から逃げるはずだ」と甘木に言い、2人は別々にそこをめざし落ち合うことにした。
甘木が哲也に「死ぬなよ」「戦いが終わったらバーポンで乾杯だ」とおどけながら言うと、哲也は顔を引き攣らせながらも、甘木の言葉を受け止めた。
そして2人は、地下の茂義ファミリー専用の通路めがけて二手に別れた。

哲也の行く手に、病室の中に入っていくの姿があった。
哲也は高の後を追い病室に入ると、拳銃を構えながら、ベッドの仕切りに使われているカーテンを、ひとつひとつ慎重に開けていった。
だが高の姿は見当たらない。
ふいに背後に気配を感じた哲也は拳銃を構えながら振りぬくが、そこには誰もいない。
その哲也の一瞬の隙をついて、高は背後から忍び寄りワイヤーで哲也の首を締め付けた。
賀津夫は、この2人の戦いをモニターから見ていた。
また別のモニターは、甘木の姿を捉えていた。
その時 賀津夫の部下が、患者からの通報で警察が動き出したことを知らせた。
賀津夫は、警察が病院に踏み込んでくる前にここを抜け出すことにし、そして部下に、「TATE」にいる真弓たちを「灰」にするよう命じた。
その会話をそばで聞いていた敬雄は「私が行く」と賀津夫に言い、拳銃を受け取り「TATE」へと向かったのだった。

その頃 甘木も、高の手下との1対1の戦いを強いられていた。
ふいをつかれ手から拳銃を叩き落とされた甘木は、敵の容赦ない蹴りを体中に受けていた。
一方 首を締めつけられ苦戦していた哲也だったが、危ういところで高から逃れることができた。
哲也はすかさず反撃にでるのだが、高をしとめることはできず、後一歩というところで高を取り逃がしてしまった。
その時 窓の外からサイレンの音が聞こえてきた。
哲也がブラインドの隙間から外を覗くと、病院の敷地内にパトカーが次々と到着していたのだった。

甘木もまた、危ないところで敵をしとめることができた。
だが 目の前にいる敵を倒したところで、前方からの予期せぬ銃撃をうけた。
それは賀津夫が発砲したものだった。
甘木は賀津夫の突然の銃撃をかわすことができず、反撃にでるチャンスも与えられず、賀津夫の銃弾を肩や胸部にうけ、その場に倒れた。
賀津夫が横を通りすぎようとした時、甘木は賀津夫の足を掴むが、賀津夫は「急いどるんだよ」と言うと、甘木の背中に銃弾をぶち込んだ。
「TATE」で この様子を聞いていた真弓たちは、賀津夫の惨さに茫然としていた。

賀津夫がファミリー専用の通路に着きドアを開くと、ドアの反対側から賀津夫の部下に拳銃を突きつけたユリが入ってきた。
賀津夫は その状況を見ても動じることなく、ユリの盾になっていた部下を撃ち殺した。
思いもよらぬ出来事にユリは茫然としながら、「あなたは、あなたのために何人の人の命を奪えば気がすむの」と責めるが、賀津夫は「わしが生きていくのに必要なだけさ」と、平然と答えた。
その言葉を聞いて怒りを堪えきれないユリは、賀津夫に向かって発砲した。
だが そばにいた部下が賀津夫の前に身を乗り出しかばったため、ユリの銃弾は部下の背中にぶち込まれ、賀津夫の身は守られた。
目の前で起こった出来事にユリは目を疑い、驚きを隠せないでいる。
賀津夫は部下に向かって「ご苦労」と声をかけると、盾になっている部下の体の隙間からユリに向かって発砲した。
賀津夫の銃弾はユリの心臓を捉え、ユリはその場に力なく倒れたのだった。

ファミリー専用の通路に到着した哲也は、床に倒れているユリを発見した。
哲也はユリの体を起こし抱きかかえると、「生きてくれ」と言葉を詰まらせ体を震わせた。
ユリは「約束を守れなくてゴメンね」「私は後悔してない。あなたに会えてよかった」と、微笑んだ。
そして「まだ眠れないのは辛いだろうけど、生きて!」と、最後の力を振り絞って哲也に告げた。
ユリはもうろうとした意識の中で「甘木さんが危ない。行って・・・」と言うと、哲也の腕の中で静かに息を引き取った。
哲也はユリの名前を何度も呼ぶが、ユリが目を開くことはない。
哲也はユリを失った悲しみに襲われながらも、拳銃を手に甘木の元へと走った。

哲也は、大量の血痕がどこに向かって点々と続いているのを発見した。
その血痕を辿っていき、そして哲也が目にしたものは、会長室の机の上にあるバーポンを目指している血だらけの甘木の姿だった。
目の前の光景に言葉をなくし、哲也は悲しみの表情を浮かべながら甘木に近づいていった。
哲也が机の上のパーボンを手にし、甘木の体を起こしてやろうとした時、部屋の中に敵が姿を現した。
甘木は敵の侵入に気づくと、自分の体を盾にして哲也をかばった。
敵の発砲した銃弾は甘木の背中にあたり、哲也はその甘木の体越しに敵に向かって発砲した。

無数の銃弾をあび、自分の力だけで立つことができなくなった甘木の体を哲也は支えてやった。
甘木は哲也に向かって「乾杯だ」と言うと、哲也からパーボンを受け取り、無造作に口の中に流しこんだ。
そして甘木はバーポンを哲也に渡すと、今度は哲也がそれを口にした。
互いに酒をかわした後、甘木は「哲也、燃えてるか」と投げかけた。
哲也は悲痛な表情を見せまいと甘木を睨み付けながら、凄みをきかせた声で、「当たり前だろ。あんたは」と答えた。
甘木も「当たり前だ」と言葉を返すが、自分の拳銃を哲也に預けると、「でも、なんだか寒いな・・・」と言い、哲也の胸の中に倒れこみ息を引き取った。
甘木の死に奇声を発し、哲也は動揺を隠しきれないでいる。
だが そうしている間にも、病院内に潜入してきた警察官たちは刻々と近づいてきている。
哲也は甘木への思いを振り切り、茂義ファミリー専用の通路へと急いだ。
そして有梨沙から受け取った入り口のセキュリティーを外す暗証番号を使い、無事に通路の扉を開くことができた。
通路を歩きながら哲也は、自分と茂義一族との戦いのために命を落としていった人たちのことを思い出していた。
優しかった兄・富士木和正石原広木ユリ甘木、そして有梨沙・・・。
だが 通路の外に出る頃、哲也の顔から怒りの表情は消え、目はうつろにさ迷っていたのだった。

その頃「TATE」では、甘木を失った悲しみに真弓は打ちのめされていた。
長嶋課長は そんな真弓を気遣いながらも、甘木が残してくれたテープを持って東洋銀行に行こうと、提案していた。
黒木も長嶋課長の意見に賛成し、もし東洋銀行がダメだったら、その時はマスコミに流そうと、真弓の賛成を求めた。
真弓は軽くうなずくと、2人とともに東洋銀行に行くことを決心した。
だがその時、3人の前に敬雄が姿を現したのだった。
長嶋課長はとっさにテープをズボンのポケットに隠すと、敬雄に向かっていこうとしてる真弓を抑え、敬雄の前に立ち「専務、ごきげんよう」と笑顔で挨拶をした。
敬雄は そんな3人に向かって、挨拶代わりに発砲した。
長嶋課長は2人をかばいながら敬雄に向かって「豚をなめんでください」と言うが、敬雄は顔色も変えず、長島課長に向かって発砲した。
敬雄の銃弾は長嶋課長の腕にあたり、3人は恐怖におののいた。
敬雄が長嶋課長にとどめを刺そうと近づいた時、哲也が「TATE」に現われた。
自分たちが知っている哲也とはまるで違う風貌の哲也を見て3人は驚くが、敬雄は「やっぱり生きていたか」と、それが当たり前であるかのように哲也に言った。
哲也は敬雄の言葉は耳に入らない様子で、自分の周りにあるものを壊しながら店の奥へと進んでいった。
そしてうつろな表情のまま「もう関係ねぇよ」と、敬雄の方へ振り返った。
敬雄は「お前を有梨沙のところへ送るよ」と言い哲也を睨みつけるが、哲也はうっとうしそうな表情を見せ「あんた、誰」と、相手にしない。
そんな哲也を見て敬雄は発砲しようとするが、敬雄よりも早く、哲也は引き金を引いていた。
哲也の銃弾をうけ敬雄は倒れるが這い上がっていくと、哲也の顔に手をあて「朝倉!」と凄みをきかせて睨み付けた。
哲也は忌まわしげな表情を見せると、「暑苦しいんだよ」と敬雄の体に銃口をあて、銃弾をぶち込んだ。
一瞬の出来事に息を呑む真弓たち。
そして その横には、敬雄の死体が転がっている。
哲也は手にしている拳銃を見ると「何、これ」と言い、おびえる3人を尻目に「TATE」から出ていった。
真弓は哲也の後を追おうとしたが、長島課長が「もう追ってはいけないんだ!」と、真弓のことを引き止めた。

哲也は自宅に戻ってくると、地下の隠し部屋にガソリンをまき、タバコに火をつけ、そのタバコを投げ捨て引火させた。
燃え盛る炎に目をやりながら、哲也は部屋を後にした。
そして・・・
壊してやる。みんなぶち壊してやる
哲也はビルの屋上から足元に広がる大都市を眺め、本物の獣へと生まれ変わろうとしていた。

哲也は賀津夫をしとめるため、茂義コーポレーションに乗り込んでいった。
獣に生まれ変わった哲也は何者も恐れることなく、茂義コーポレーションの正面玄関から入り、賀津夫の元へと向かった。
哲也は表情ひとつ変えることなく、行く手に立ちはだかる敵を次々に倒していった。
「助けてくれ」と哀願する敵も、銃弾がなくなり戦力を失った敵も、冷酷なまでに撃ち殺していった。
もはや哲也を止めるものは何もない。

哲也が屋上にたどりつくと、そこには賀津夫の姿があった。
哲也は賀津夫に向かってまっすぐ歩き出した。
その時、建物の影に隠れていた高が哲也に向かって発砲した。
高の銃弾は哲也の足にあたり、哲也はよろめき倒れた。
と同時に、賀津夫と高の激しい銃撃が哲也を襲う。
2人の銃弾をかわしながら、哲也は不利な体制のまま高に向かって発砲し射殺した。
哲也は体制を立て直すと、賀津夫に向かって2丁の拳銃を構えた。
賀津夫は哲也に向かって発砲しようとするが、拳銃には銃弾が残っていなかった。
哲也と賀津夫は相手の次の行動を読むかのように、互いに見据えたまま動かない。
そして賀津夫が胸元の拳銃を取り出したと同時に、哲也も甘木から渡された拳銃を取り出していた。
哲也の気迫に賀津夫は一瞬ひるむが、2人はほとんど同じタイミングで引き金を引いていた。

・・・賀津夫は会長室に戻ってきた。
そしてインターホンに手をやると、秘書に今日の予定を聞き、机の上に飾ってある写真のフレームを手に取った。
賀津夫は秘書の声を聞きながら、敬雄と有梨沙と3人で写っている写真に目をやった。
だが、その賀津夫の手から写真は離れ、胸元にうけた哲也の銃弾の傷口から血が滴り落ちていた。
賀津夫は会長室のイスにもたれながら、まるで眠っているかのように息を絶えた。

・・・哲也は屋上に立っている鉄筋の柱に体をあずけ、目を閉じていた。
そして海鳥の声を聞くと哲也は目を開き、脳裏に静かに波打つ海の情景を思い浮かべていた。
哲也はそれに誘われるかのように、痛めつけられた体を引きずって屋上の端へと歩き出した。
だが 目の前に広がる海を見ると、哲也は力尽きその場に倒れこんだ。
哲也は心地よい潮風に体を包まれ穏やか表情で眠りについたのだが、腹部には賀津夫からうけた銃弾の傷跡があった。

哲也が兄のために取り戻そうとしていた新東和ファイナンスは、厳しい情勢の中、再建に向けて動き出していた。
新東和の会議室では、富士木前社長の意志を引き継いで会社を立て直そうと、役員会議がなされていた。
その中に、取締役に昇進した長島課長の姿もあった。
そして真弓の姿もあった。
黒木は長嶋新取締役の後を継いで、カード推進営業第3課の課長に昇進していた。

海辺には、新東和信販再建の新聞記事を読む哲也の姿があった。
哲也は新聞を読み終えると、海鳥や波の音、潮風に身を任せていた。
哲也の腹部には、賀津夫からうけた銃弾の跡が生々しく残っている。
その哲也の背後に警察が現われ、哲也を取り囲むように警察官たちがジュラルミンの盾を手に拳銃を構えていた。
哲也はそばに置いていた拳銃を手にし、それを自分のこめかみにあてると、不屈な笑みを浮かべた。
そして警察官たちの方へ振り返ると、「シャラップ!」と言いながら銃口を向けたのだった。

そして、野獣は蘇える・・・。


いねの今週のベスト・ショット

最終回は、やっぱり泣きました。
ユリが哲也の腕の中で息を引き取るシーンにウルウルし、その後の甘木の絶命のシーンは体が硬直し、気づいたら涙が・・・。
なんかね、ああいう男の世界って好きなんですよ。

甘木は哲也を守るため、敵の銃弾を背中にうけた。
賀津夫からの銃撃に傷ついていた甘木は更に深い傷を負い、そんな甘木には、もう死を待つことしか残されていなかった。
自分の力で立つことのできない甘木の体を哲也は支え、「乾杯だ」という甘木にパーボンを渡してやった。
むせながらも、おいしそうにバーポンをほおばる甘木。
哲也もまた、そのパーボンに口をつける。
互いに酒をかわした後、甘木は自分の拳銃を哲也に預けた。
そして「なんだか寒いな・・・」と言うと、哲也の胸に倒れこみ、哲也の腕の中で永遠の眠りについのだった。
おまけ

最後の海辺のシーンのけだるそうな慎吾の横顔、この表情はクラクラもんです(笑)!
いねのもう少しだけ言わせて〜

慎吾は「香取慎吾」を感じさせないまま「朝倉哲也」を演じきり、そして朝倉哲也は、見事に「金狼」に変身しましたね。
慎吾がドラマをするたびに、その演技力の幅の広さに感心するのですが、今回は今まで以上に「金狼ワールド」に引き込まれていきました。
朝倉哲也を演じていたのは香取慎吾ではなく、本当に朝倉哲也だったのかもしれません。
そう思わせてしまう香取慎吾は、理屈抜きにすごいヤツです。

・・・ということで、慎吾にべた惚れのまま 終わろうとしている「金狼レポ」ですが(笑)、この3ヶ月間、つたないレポに付き合っていただいて、 本当にありがとうございました。
担当はいね(#4051)でした。m(_ _)m


蘇える金狼